ぞうき林
金メダル
2010-3-3
バンクーバー冬季五輪が終わった。フィギュアスケートの浅田真央選手がNHKの番組で試合を振り返り、フリーの演技でジャンプが乱れた直前の心境を語った。その言葉が印象深い。「このジャンプで9点ももらえる、そう思ってしまったんです」▼高難度の3回転半ジャンプを決めるなどほぼ完璧な演技で前半を終え、後半に入ったその瞬間、ふと得点のことが脳裏をかすめたのだという。極限の集中力が試される4分間の中で、ほんの一瞬、「金メダルかもよ」とささやく悪魔の声に、氷上の妖精は微妙に足元を狂わされたか▼「勝つと思うな 思えば負けよ」と美空ひばりは歌ったが、脳科学的にも「ゴール間近だ」と思った瞬間、脳と運動の機能は一気に低下してしまうらしい。俗に「最後まで諦めるな」というが、勝負の世界でよくある土壇場の大逆転劇は、実は脳のこうした“達成目前で緩む”メカニズムの仕業なのかも▼何かを成し遂げるには、万全の準備と鍛錬を積んだ上で、いざ本番では虚心坦懐、結果を求めずただひたすら、すべきことに集中すべし。はからずも浅田選手は、失敗という貴重な経験を通じて教訓を得、私たちにも教えてくれた▼とはいえ、浅田選手の輝きは何ら色褪せるものではない。国民の期待という途方もない重圧と闘った19歳が、どれだけ多くの人に力と夢を与えたか。国別のメダル数に興味はないが、頂点に挑み続けるひたむきな姿は、それだけで金メダルにみえる。(成)

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