ぞうき林
春一番
2010-2-26
久しぶりに小説に泣かされた。北村薫作「ひとがた流し」(新潮社)。高校からの幼なじみで、40代となった女性3人を中心とした物語。じんわり涙を浮かべることはよくあるが、声を出して泣くことはそうはない。真夜中だったのでおえつが漏れないよう、抑えるのに必死だった▼北村作品は大好きで、20代のころからこの作品のプロローグともいうべき、「月の砂漠をさばさばと」も含め、ほとんど読んでいる。肌が合うのだ。ただ、今回は章ごとに語り手がかわる形式に慣れず、中盤くらいまでなかなか物語に入っていけずにいた。そう期待値が高くなかったからこそ、感動が倍増したのだろうか▼先日、大間々中の立志式で、バルセロナ五輪の110メートルハードルに出場した岩崎利彦さんの話を聞いた。世界を目指した選手時代の話はもちろん面白かったが、それ以上にいまも友情が続く中学の同級生の話をする岩崎さんの笑顔が印象に残った▼岩崎さんは言う。「たまたま同じ時代、同じ場所に生まれ、同じ時を過ごすことになった友を大切にしてほしい」と。喜びも悲しみも濃密だった学生時代。今回の涙の正体は物語への感動だったのか、失ってしまった友を思い出した悲しみだったのかはいまも分からない。だが、あのころを懐かしく思えるいまだからこそ、ここまで胸を打ったのだろうと感じている▼忙しさにかまけ、年賀状まで失礼してしまった今年。春風に乗せ、旧友に便りを出してみようと思う。(野)

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