桐生タイムス | 悪魔に負けない

ぞうき林

悪魔に負けない

2010-2-2

 出張先に向かう道のりで東京を経由した。当たり前だが、桐生のまちより人が多い。歩く人も車の人も電車の人も。一昨年6月に無差別殺傷事件があった秋葉原も、山手線の車窓から垣間見えた▼出張の日はたまたま、この事件の初公判の日だった。被告の男は27歳の元派遣社員。人とのつながりがほとんどなくなり、自暴自棄になった被告は、抱いた妄想を実現するために、人がたくさんいるところを選んだ▼まったく理性が無くなったのなら、そこまで計画的に行動できなかっただろう。覚せい剤などで幻覚が現れ、刃物を振り回すのとは別の種類の行動であろうことは、専門家でなくても分かる。残っていた理性は「他人への思いやり」ではなく、「自己中心の思考」という心に支配されたのかもしれない。自分の思いを実現するためなら、自分以外のことが考えられなくなる。それは、ヒトが人間になって以来、「悪魔」と呼んできたものだろう▼派遣社員(制度)=悪ではない。携帯電話の掲示板=悪でもない。ただ、食べるために調理するという行為に欠かせない刃物が、使い方によっては人を殺傷する道具になるように、派遣制度や携帯電話はその使い方によっては、人の心に悪魔を巣食わせることにもなるようだ▼人はだれしも悩みながら生きている。悩んでいるのは自分だけじゃないことを彼が少しでも掘り下げていたら。掲示板でなく、過去の書物に答えを探そうとしていたら。(な)