桐生タイムス | 朝の風景

ぞうき林

朝の風景

2010-1-14

 週のはじめ、午前6時すぎ、市場への取材に向かうため、車に乗って家を出る。フロントガラスの向こう、西の空は青黒く、まだまだ夜の延長。交差点を折れ、堤防へと続く坂道を登り、渡良瀬川に架かる橋の上に出た途端、視界は開け、これから明けようとしている東の空と、薄桃色に染まった赤城山が、川の上流側と下流側、それぞれに広がる▼エリック・ロメール監督の映画「レネットとミラベル 四つの冒険」で、2人の女性がひっそりと足をしのばせるように屋外を歩いている。スクリーンは一面の青。夜の終わり、朝の始まりに立ち会おうと、家の脇をすり抜けて野に向かう2人。やがて虫が鳴きやみ、一瞬の静寂、ほどなく野鳥のさえずりが耳に届く。1990年代はじめ、都心の映画館で、静かに見た映画▼その後、機会あればロメール監督の作品を鑑賞した。画面から湿度や温度がにじむようで、同時録音にこだわった音づくりと併せ、フレームを超えて広がる映画の世界を楽しませてもらった。ロメール監督が11日、89歳で世を去ったと聞き、改めて彼の作品にしるされた小さな奇跡のようなシーンを思い返してしまう。早朝の景色は、そのきっかけ▼今年の高崎映画祭の受賞対象がこのほど発表された。これからの映画史に刻まれるはずの作品たち。映画から遠く離れかけている暮らしのなか、日々を彩るファンタジーの効用をもう一度信じるべく、3月の映画祭を楽しみに待ちたい。(け)