桐生タイムス | ためる

ぞうき林

ためる

2009-12-14

 弓を射るとき、ピンと張られた弦に矢をひっかけて、ぐいと引っ張る。たわむ弓幹。そのたわみがきついほど、復元力は大きくなり、放たれた矢は遠くまで飛ぶ。普段の生活ではほとんど見かけない所作だが、考えてみれば野球の打者やゴルファーがボールを遠くまで飛ばそうと、からだをひねる所作なども、どこかこれに似ている▼野球の解説でよく耳にする「ため」。次の動作に移るまでひと呼吸置く、あるいは力を蓄えた状態のまま我慢するといった感覚か。からだのあちこちをひねり、ボールを放ろうとしている投手、その球威に負けじと、バットを引いて待ち受ける打者。力を一点に集中して解き放つ勝負が、場に緊張感を与える▼「ため」が大切なのは、物理的な力を求めるときだけのことでもなさそう。東京で映画づくりに取り組む草野翔吾さんは、ブログなど情報伝達技術の発達により、なにかを創造するために必要不可欠なエネルギーが、最近は蓄積されにくくなっているのではと指摘する。不安も不満も、喜びも悲しみも、言葉にして“だれか”に伝えずにはいられない時代なのか▼自分の感情を世界発信することで、どこか和らぐ気分。「エネルギーを小出しにしていれば、大きな力は生まれない。そこを我慢して、自分の作品づくりに振り向けている」と草野さん。目先の楽しさや心地よさを追いかける分、手に入らないものも多くなる。いまの時代の課題とも言えるのか。(け)